(70点)2017年芥川賞受賞作の影裏(えいり)を情熱的に感想・評価・レビュー。作者が見えない。

投稿日: カテゴリー: Blog(ブログ), Literature(文学), MembersOnly(会員限定), Radio(ラジオ), 芥川賞

どうもこんにちは、SenKuSya代表のKotaです。

今年も芥川賞が発表され、沼田真佑さんの「影裏(えいり)」が受賞しました。
今回はこの影裏の感想を書いていきたいと思います。
この作品は、なんと新人賞を受賞した作品であり、それが続けて芥川賞も受賞ということになったそうです。

ちなみに、僕は純文学がとても好きで、毎回この芥川賞の作品を楽しみにして読んでます。
「火花」や「しんせかい」は感想を書いておりますので、是非そちらも見てみてください。
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芥川賞受賞作「しんせかい」を情熱的に感想・レビュー。過去と現在の自分の関係


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「影裏」について

大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。
北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の地で、ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。
ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。
いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、
「あの日」以後、触れることになるのだが……。
樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す。


この作品の特徴は3つあります。

まず一つ目は、作品の短さです。56ページしかありません。
なので、1時間ほどでさくっと読み切ることが出来ます。

そしてもう一つは、漢字がやたらと難しいことです。
それに加えて漢字に読み仮名が振ってありません。
言葉自体が特別難しくて意味が分からないなんてことはありませんので、読み仮名さえ振ってもらえると非常に助かると思いました。
それは著者の仕事なのか、編集者の仕事なのかよく分かりませんが、難しい漢字がやたらと出てくるので、その都度調べないといけなかった点は、僕からすると読みにくいなと感じました。

最後は、震災とLGBTについて触れているというところです。
震災に関しては、主人公の友人である日浅の失踪に関係してはいますが、ほとんどそれだけであり、震災から主人公が何かを思ったり、心を動かされたりということはありません。

また、LGBTについては、主人公がゲイなのですが、何の説明もなく突拍子に、以前付き合っていた人が男だという情報が出てきます。
なので、最初僕は「主人公は男だと勝手に思っていたけど、女性だったのかな?」と思いました。
しかし、主人公の名前もほとんど出てこず、疑問を抱えたまま読み進めていくと、ゲイなのだと言うことが分かります。

このLGBTの話題に関しては、物語の進行には何ら影響はなく、特にゲイであることに関しての、感想もないので、僕としてはよく分からずじまいで、この設定は必要だったのかと思いました。


そして、内容についてですが、影裏の作品の軸は、主人公の同僚である日浅の「何か大きなものの崩壊に脆く感動しやすい」性格です。
これが最初に伏線のような形で提示され、最後にきっちりと震災の津波の場面で回収されます。
ですが、それだけです。
その津波があらゆるものを飲み込んで、街が崩壊していく姿に陶酔する、ということにおいてのみに使われており、日浅の人生において、この性格が何か他の事柄の原因になるようなことなどはありません。
読者目線だと、もっとこの性格に関わる事件が欲しいなと思いました。


また、この作品は場面展開が非常に分かりづらいです。
あえてそうしているのかは分かりませんが、何の説明もなく時間が交錯していくので、読みづらいかなと思いました。


この作品のレビューを見ると、まるでAIが、純文学とはこんな感じだよねと書いた文章のようだ、という意見もありました。

そう揶揄される理由は何なのかというと、作者が見えない点にあると思います。
この作品では、震災もLGBTも独居老の話題も散りばめられてあります。
しかし、そのどれに対しても思いっきり突っ込んでいないせいで、全てが曖昧で退屈な文章になっています。

また友人の日浅が失踪した際に、日浅の父親が言った「息子なら死んではいませんよ」という意味深な言葉も、それ自体に説明はなく、この言葉がどうして書かれているのかの意図も分からなかったです。

そして、この作品の題名にもなっている「影裏」に関しては、物語の終盤で出てくる「電光影裏に春風を斬る」から取っているのか、だとしたら、それは果たして何を意味しているのか。
もしくは、それとは関係なく、人間には日に当たらない裏の部分があるということを伝えたかったのか。

そこら辺が少し分かりにくかったなと思いました、

以上のような点があるせいで、僕としては、作者はいったいこの作品を通して、何を伝えたかったのか分かりませんでした。

今までの僕が読んだ芥川賞の受賞作品の「コンビニ人間」や「火花」「しんせかい」はそれぞれにテーマがあり、それに沿って進んでいたおかげで、読んだ後に心に残る部分、作者が提示したテーマを自分の中で改めて考える部分などがありました。
僕はそれこそが純文学の良さだと思ってます。
だからこそ、それが無いと味気ないなと感じてしまいます。

とはいえ、この作品は新人賞を受賞しているので、もしかしたら新人賞を取るために書いたものであり、それが運良く芥川賞にも受賞されたと言うかたちで、あえてそういう形にしているのかもしれません。


批判的なことばかり書きましたが、この作品は情景描写が上手いと評価されています。
物語の肝となる、次の部分はその光景を容易に想像することが出来ます。

あの日早朝から家を出て、午前中は契約を求めて釜石市内の住宅地を回り、けれど振るわず、あるいは首尾よく契約をもらって安堵した日浅が、さてここからは自由時間だと海岸沿いに車を走らせる。
やがて渚から湾へと突き出た格好の堤防を見つけて意気揚々と投げ竿を振る。
ありそうなことだ。
十四時四十六分。
ソイやアイナメ、マコガレイなどではち切れそうなクーラーボックスに腰をおろして日浅は海を見ている。
ふと凄まじい揺れを、足もとから全身に感じて立ちあがり、思わずいったん、顔を空に向ける。
テトラポッドを軽くひと舐めするように、黒々と濡らして消える波の弱音を聞く。
この数十センチの小波はしかし、あの大津波の第一波なのだ。
船着場附近に点々と停車していたタクシーは姿を消している。
急発進し、坂道を猛スピードで駆けあがってゆくバイクも見える。
ひょっとしたらこのとき遠くから逃げろと叫んでいた人も、ことによるといたのかもしれない。
だが日浅の目は茫然として、はるか沖の一点に向けられている。
海の向こうから海岸線いっぱいに膨れあがった防潮堤が次第に自分のいるほうへ近づいて来るのをただただ見ている。
それがコンクリートの壁などではない、巨大な海水の壁だとわかったときにも、日浅の足は動かない。
却ってその場に釘づけになる。まじろぎもせず、目ばかり大きく見開かれるのに決まっているのだ。
そしてその瞬間、ついに顎の先が、迫り来る巨大な水の壁に触れる、いつも睡眠不足でくたびれたような、そのくせどこか昂然としたあの童顔が包み込まれる、その最後の瞬間まで、日浅は目を逸らすことなどできないだろう。


僕の感想としては、以上です。

今回は僕にとっては心にどっしりと響くような部分はありませんでしたが、次また沼田真佑さんが新しい作品を発表した時は、是非とも読んでみたいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

それでは、また明日。

本文中に出てきた作品


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